14 外来単価と入院単価 経営センスがついてくる!

 奈須はいつものように、夕方の勉強会に医事課へ向かった。石崎が院長に呼ばれたようで、まだ帰ってきていない。ふと、石崎の机に、といった表を発見した。表には、外来単価7,000円/日、入院単価35,000円/日と記してあった。単価とは、どういう意味だろうといろいろ考えたがわからなかった。そこで奈須は、本日の勉強会のお題として、外来と入院の単価について教えてもらいたいと考えた。

石崎:ごめんごめん、遅くなってしまった。

奈須:今日の勉強会は、外来と入院の単価について教えてもらえないかな?

石崎:いいよ。忙しくて勉強会の用意をしていなかったから、助かった。

奈須:外来単価って、どういう意味なの?

石崎:外来単価は、外来患者さんが来院した時の1日の当たりの平均患者単価だよ。つまり診療費用だよ。紙に書くとこの様になる。(式4)

奈須:そんなに難しくないね。

石崎:入院単価は、外来単価と同様に入院患さんの1日当たりの平均診療費用だよ。紙に書くとこのようになる。(式5)入院延べ人数や入院延べ日数と表現したりもする。

奈須:病院の統計表によって、人数であったり、日数で書かれたりしているからかな。

石崎:その通りだよ。ところで、外来単価と入院単価は、どうすれば簡単に上がるか、わかるかな?

奈須:えーっ、そんなことできるの?難しいなあ。薬をたくさん処方するの?検査をいっぱいやるの?

石崎:確かに、薬をたくさん処方したり、検査を多くすれば、単価は上がるかもしれない。でも、それって、無駄な診療であり、倫理的に許されないよね。

奈須:確かに、まずいよね。石崎にしては、いいこと言うじゃん。これまで、事務の人は、金の亡者だと思っていたよ。見直したよ。それで、どうすれば、倫理的に問題なく単価が上がるの?

石崎:外来の単価を上げる秘訣は、新患率だよ。

奈須:新患率って?

石崎:新患率とは、新患比率や新患者比率と言われている。この式を見れば、わかると思うけど(式6)、外来患者中の新患者の割合を示したものだよ。単価が上がるのは、新患率が上がる時、下がる時、どっちだと思う?」

奈須:想像がつかないなあ。

石崎:正解は、新患が多くなる時だから、新患率が上がる時なんだ。

奈須:なぜ?

石崎:これは、診療と診療報酬に秘密がある。診療で言えば、初診と再診だと、どちらが、検査が多くなる?

奈須:やっぱり初診かな。ルーチン検査や画像検査も多いよね。

石崎:何か気付かない?

奈須:そうか!初診は、診断をつけるために、血液検査や画像検査が多く行われるよね。再診は、検査は、あまり行われず、検査結果の提示や具体的な治療が行われることが多いよね。それだけ、最初の診察は、医療行為が行われる場合が多いってことね。

石崎:診療報酬の面からみると、(図5)のようになる。先ず、基本診療料である診察料が、初診の場合は、初診料として288点、再診の場合は、再診料として73点となる。この時点で、215点、2,150円の差が出ている(2020.4)。それと、再診料には、52点も算定できるのだけど、検査などを行わない場合だから、算定するとなると点数が低くなる。さっき、説明した初診の方が、検査などが多くなりがちだから、どうしても特掲診療料が高くなる。そんな訳で、新患率を上げたくなるんだよね。再来患者は、薬をもらいに来る人もいるよね。そんな場合は、再診料と処方せん料だけになってしまうんだよ。外来管理加算が取りづらくなってからは、再診料73点と処方せん料(7種類以上)40点なんて人も結構いるよ。それじゃあ外来単価が下がるよね。

奈須:そうなんだ。

石崎:外来の問題は、いろいろあるよ。再来が増えると医師が忙しくなるよね。忙しくなると、いらいらする先生もいる。そうすると患者の評判も悪くなる。単価が安くなり、評判が悪くなるといった悪循環にも陥ることもある。あとは、外来患者延べ人数が増えると医療法では、医師を増やす必要が出てくる。1日の外来患者40人に医師1人と決められているんだ。だから病院としては、できるだけ、単価の高い患者に来てもらった方がいいんだよ。

奈須:外来単価については、分かったわ。入院単価のしくみについても教えてよ。

石崎:入院単価を上げるのにも2つのポイントがある。分かる?

奈須:一つは、平均在院日数を下げることによって、入院基本料が上がることよね。もう一つは?

石崎:もう一つは、図を書かないと説明しづらいね。

奈須:どんなしくみか、楽しみだな。

石崎:図6)を見てごらん。奈須の病棟は、外科病棟だよね。手術で入院する患者さんで最大のイベントは、手術の日だよね。医療費も手術の日がピークとなってるよね。でも、術後はそんなに点数が高くないのがわかる。これは、奈須も現場にいるから分かると思うけど、術前は検査などがあり、医療行為も行われるため医療費も高くなる。手術は、医療費の中でも高額なだけに、手術の日は、術前処置と手術、術後処置まで、医療行為も多く行われる。術後は、抗生剤の予防投与や様子観察だからそんなに医療費がかからない構造となっている。そうすると、4日目の退院と6日目の退院では、入院単価が違っている。乱暴に計算すると、入院基本料が1,440点/日、入院期間14日以内の初期加算が450点/日、初日検査が1,000点、手術3万点、3日目以降の点滴などが400点/日だとすると、4日間であれば、3万9360点であり、6日間だと4万3940点となる(2020.4)。

奈須:そうすると6日の方が、病院の収入が増えるし、得じゃないの?

石崎:そう見えるよね。これを1日当たりの単価にすると、4日間は3万8712点÷4=9678点、6日間は4万2968点÷6=7161点となる。1日の単価は、4日の方がいいだろ。

奈須:単価が上がっても、病床が空いては、収入にならないから、病床の稼働と平均在院日数のバランスを考えないといけないわね。

石崎:だんだんセンスが良くなってきたね。ただし、外来と入院の単価を向上させる方法を説明したけど、これらは、あくまで理想の話なので、どこまで、この通りに外来や病棟を運営できるかは、管理者の力量だよ。医療は、アナログだから難しいよ。